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2.毒物・危険物・有機溶媒の取り扱い注意

われわれが取り扱う機会の多い化学物質の中で、人間や環境に対して危険を及ぼす可能性の高い物がある。化学物質の危険性には大きく分けると発火・爆発性、腐食性及び生体への有害性があるといわれる。そこで、説明と取り扱い注意について述べる。

 

化学物質の様々な性質

 

1.発火・爆発危険性

発火・爆発性物質はそれに熱や火炎あるいは打撃摩擦などの衝撃が与えられたり、他の化学物質との混触により、条件によっては発火や爆発を起こす。従って発火・爆発物質を取り扱ったり、貯蔵したり、廃棄する場合には、事故防止のためそれらの潜在危険性を充分に知った上で安全に取り扱うことが大切である。

 

a.不安定物質・爆発性物質

熱、火炎、打撃、摩擦により発火・爆発する物質

 

b.引火性物質・可燃性物質

空気に触れただけで容易に発火しないが、これに発火源があると容易に発火する物質。引火性物質にはエーテル、二硫化炭素、アセトン、ヘキサンなどがあり、可燃性物質には、水素、一酸化炭素、アセチレンなどがある。

 

c.自然発火性物質

空気に触れただけで容易に発火したり、発熱したりする物質。有機リチウム、有機アルミニウム、黄リン、還元ニッケルなどが含まれる。

 

d.禁水性物質

水と接触すると発火したり、発熱したりする物質。アルカリ金属、有機リチウムなどの有機金属化合物などがこの分類にはいる。

 

e.混触危険性物質

その物質単独では発火・爆発の危険性はないが、他の物質との混触により、発火・爆発を起こす物質。酸化性物質と還元性物質との混合、禁水性物質と水、湿気との混触などである。

 

2.腐食危険性

 

人体に接触すると、皮膚や粘膜を強く刺激したり、組織損傷を起こす腐食性物質氷酢酸、無水酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、フッ化水素酸などの強酸やアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリである。

 

3.毒性

 

化学物質を使用する場合、あらかじめその物質の生体内への移行性と毒性の程度と機構を理解する必要がある。

 

実験の際の注意

 

1.有機溶媒を取り扱うときには、ドラフト内で行うことが望ましい。

 

2.発火・爆発性物質の取り扱いの注意

 

a.不安定物質・爆発性物質

 

ア.多量の取り扱いは厳禁である。

イ.発熱反応に注意する。

ウ.金属スパチュラ、ガラス共栓の使用は厳禁である。

エ.溶剤等の火源となるので、付近に溶剤を置かない。

オ.消火器の存在場所を確認する。発火の恐れがある場合には、消火器 を身近に用意する。

 

  b.引火性物質・可燃性物質

 

ア.火、スパークには近づけない。

イ.溶剤蒸気には一般に空気より重いものが多く、床の上を流れて拡がるので、遠い位置にある火気にも注意する。

ウ.密閉性容器の上部空間は爆発限界内にあることが多い。

エ.消火器の存在場所を確認する。発火の恐れがあるばあいには消火器を身近に用意する。

 

  c.自然発火性物質

 

ア.空気中で発火することがあるので、窒素またはアルゴン置換のドライボックス内で取り扱う。

イ.溶剤等の火源となるので、付近に溶剤を置かない。

ウ.消火器の存在場所を確認する。発火の恐れがある場合には、消火器を身近に用意する。

 

  d.禁水性物質

 

ア.水および湿気や皮膚に触れないように注意する。

イ.溶剤等の火源となるので、付近に溶剤を置かない。

ウ.乾燥砂を用意しておく。

  e.混触危険性物質

 

ア.混触が起こらないように注意する。

イ.溶剤等の火源となるので、付近に溶剤を置かない。

ウ.消火器の存在場所を確認する。発火の恐れがある場合には消火器を身近に用意する。

3.腐食性物質の取り扱いの注意

 

ア.取り扱い時には保護眼鏡、防災面、ビニール手袋の着用が望ましい。

イ.万が一目や皮膚についた時、すぐ多量の水で15分間以上洗う。中和しようと考えてはいけない。

研究室で主に使用する試薬の取り扱い注意

 

酸性物質

 

塩酸 HCl 濃塩酸は目や皮膚に触れると炎症を起こすので注意する。水で希釈するときは発熱するので注意する。

 

硫酸 H2SO4 濃硫酸は皮膚、粘膜などに触れると水分を奪い化学性の火傷を起こす。この種の火傷は深部まで浸透する。加熱された硫酸が発生する蒸気を吸うと肺に炎症を起こす。低濃度の蒸気でも長時間さらされると気管に慢性の障害が起こる。水で希釈するときは塩酸よりも発熱するので注意する。

 

酢酸 CH3COOH 酸味のある液体で安定に保存できる。金属や皮膚を強く腐食し重い火傷を起こす。濃い蒸気を吸入すると目や呼吸器などを強くおかす。

 

還元性物質

 

水酸化ナトリウム NaOH 強塩基で酸と混合すると発熱する。動物の全ての組織を侵す。皮膚に触れたら多量の水で洗う(ぬめりのとれるまで)。目に入ったときには多量の水で洗浄し、ついでホウ酸水で洗浄し、専門医の診断を受けることが望ましい。

 

アンモニア水 NH3 日常よく用いられるが劇薬であり、温度の上昇にともなって容器内のNH3の分圧が増大して、時として爆発することもあるので冷所に保存し扱いに注意する。

 

有機溶媒

 

アセトニトリル CH3CN 貯蔵には換気良好な冷暗所を選び、火気厳禁。蒸気の吸入、飲み下しまたは皮膚吸収により強い毒性を示すので、取り扱いにはドラフト内または防毒マスクなどの保護具の着用が望ましい。

 

酢酸エチル CH3COOCH2CH3 引火性の強い液体で冷暗所に保存。

 

メタノール CH3OH 有毒で摂取すると目に障害が現れ、失明し、死亡する。体内で酸化され、有毒なホルムアルデヒドや蟻酸に変化する。ヒトに対する最大致死量340mg/kg

 

クロロホルム CHCl3 無色透明の液体で揮発性が高く特有の臭いを有する。不燃性かつ低毒性で化学的には安定である。常温で長時間日光に当てたり、暗所でも空気が存在すると徐々に分解し、ホスゲンや塩化水素、CO2、Cl2、H2Oを生じる。強力な麻酔作用を有し、慢性的には内蔵に障害を及ぼすことも知られている。発ガン性が疑われている。

 

ジエチルエーテル EtOEt 光、空気(酵素)と長時間接触して保存すると、爆発性の過酸化物を生成するので蒸留する前にチェックする。気体のジエチルエーテルは空気と爆発性の混合物を生成し、極めて引火しやすいので取り扱いは特に注意が必要。

 

フェノール C6H5OH 特有の刺激臭を有し、潮解性のある無色結晶、有毒で皮膚を侵す。それ自身としては、殺菌消毒剤である。

 

貯蔵には喚起良好な冷暗所を選び、火気厳禁。