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3.TRANSFECTAMによるトランスフェクション法(石井功)

 トランスフェクタムは、独特の両親媒性と結合性を持つトランスフェクション用の試薬であり、真核細胞への外来DNA(Plasmid)導入を効率よく行うことができる。操作は簡便・短時間であり、細胞毒性がないため幅広い細胞に利用可能である。

 

原理: トランスフェクタムは従来法(リン酸カルシウム法・リポソーム法・エレクトロポーレーション法)とは異なる独自の方法に基づいている。トランスフェクタムは、その活性部分がリポスペルミンで構成されている合成カチオンリピドであり、反応中800~1000≠フミセルを形成する。このミセルは不安定で、スペルミン部分がDNAと強いアフィニティーを持つためプラスミドと相互作用して複合体を形成する。そして、速やかに、自然に細胞膜に結合し、エンドサイトーシスによって細胞内部に取り込まれる。

 

特長:

1. 操作が簡単

  DNAとトランスフェクタムを混合して、培養細胞に加えるだけ。

2. 導入効率が高い

  リン酸カルシウム法やリポソーム法に比べ効率が高い。

3. トランスフェクションに要する時間が短い

  トランスフェクションの効率はホストとプラスミドの組み合わせに依存するので最適条件を求める必要があるが、多くの場合トランスフェクション時間は30分以内に短縮することができる。短時間で行えるため、細胞への影響を最小限に抑えることができ、特に無血清培養中で壊れやすい細胞に有用である。

4. 細胞毒性がない

  トランスフェクタムは、高濃度や長時間の処理によっても毒性が認められない。そして、細胞由来の酵素により分解されるため、細胞内には残留物は認められない。従って、主要な生理的調節経路が影響を受けることはない。

5. 幅広い細胞に利用可能

  幅広い細胞でトランスフェクションに成功している。特に、困難とされる初代培養細胞にも適している。

6. 試薬が安定である

  粉末状で、冷蔵保存なら一年以上安定。調整液で、冷蔵保存で約6カ月安定。

7. 値段が高い

  1994年2月現在、和光・ニッポンジーン社を介してIBF biotechnics社のもの(定価68500円)、ボクスイ・ブラウン社を介してSEPRACOR社のもの(定価66000円)が入手可能であるが、この二つは同じものである。

 

使用方法:

 効率はホストとプラスミドの組み合わせに依存する。また、プラスミドの精製法も重要である。

1. トランスフェクタムの調整(Stock Solution)

  98%エタノール40μlをチューブにいれ溶解した後、室温で5分間静置する。次に滅菌したDDWを360μl加え、軽くVortexする。

2. プラスミド溶液(A液)の調製

  0.3M NaCl溶液(適量、実験による)にプラスミドモPモμg添加し、Vortexする。

3. トランスフェクタム希釈液(B液)の調製

  モPモx1.5~5μlのStock Solutionを滅菌したDDWに添加し、Vortexする。

4. トランスフェクション

  等量のA液とB液を速やかに混合し、血清及びトリプシンフリーでなるべく少量にした培養液中の細胞に添加する。トランスフェクションに要する時間はホストとプラスミドの組み合わせにによる(30分~48時間)。

 

使用例:

 Cos-7細胞にpcDNAIにGuinea-PigのPAF Receptorを組み込んだプラスミドをtransientに発現させ、3H-WEB2086の結合で検出した。

1. 6穴Dishに1穴あたり1.5x105個の細胞をまく(注1)。24時間培養する。

2. 3mlのWarm PBS(-)で2回Washする。

3. 3μgのプラスミドを含んだ0.5mlのA液と9μlのTRANSFECTAM Stock Solutionを含んだ0.5mlのB液

 (注2)を混合し、加えて、一時間培養(注3)。

4. Medium(containing 10% FCS)を5ml加えて、二~三日間培養(注1)。

5. WEB結合実験。

 

注1. Transfectするときの細胞数は多い方がいいが、二~三日間の培養で増えすぎて細胞がはがれてくる場合があるので、細胞密度・培養時間を検討する必要がある。

Cos-7細胞にpcDNAI+PAF-Rを発現させる場合は、1.5x105/wellの密度で6穴プレートにまき、一日培養後トランスフェクトし、三日培養して最大結合活性が得られた。

 

注2. プラスミドの量及びプラスミドとトランスフェクタムの量比について検討する必要がある。

  6穴プレートの場合、1~5μgまでプラスミドの濃度依存的に発現した。また、3μgプラスミドに対し3倍の9μlのトランスフェクタムを用いた場合が、もっとも効率が高かった。

 

注3. トランスフェクタムに細胞毒性はないとはいうが、トランスフェクションの間は細胞は急にただの生理食塩水に浸かっているだけなので、後のレスポンスが悪くなったり、剥がれてきたりする。できるだけ短時間にすませる。さらに詳しくは、和光・ニッポンジーンの遺伝子工学研究用試薬総合カタログマニュアルを参照のこと

 

実験医学別冊「新遺伝子工学ハンドブック」(1996年)参照