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33.Differential display(武山健一)

Differential Display Methodの有用性

 

細胞の形態や機能は、遺伝子にコードされているタンパクの働きにより規定されており、動物細胞においては約10万の遺伝子が存在すると推定されている。しかしながら、現在、機能を含めて同定されている遺伝子は数%に満たない。従ってタンパクの一次構造情報を集約しているcDNAを解析対象とすることは、必須であると考えられる。このことから特定の細胞や組織にのみ発現している遺伝子、発生過程など特定の時期にのみ一過性発現されてくる遺伝子、細胞や組織にある処理を加えた際に誘導される遺伝子など選択的に単離し、遺伝子を同定することは高次生命現象の解析の糸口になると考えられる。

近年、様々なサブトラクション法がこれら遺伝子の選択的な単離法として確立されてきた。異なるcDNAライブラリーを用いたdifferential screening法、 solution中にてmRNAとcDNAを選択的にhybridyzeするdifferential hybridyzation法である。しかしながらこれらの手法は完全長のcDNA ライブラリーや大量のmRNAを必要とするため、用いる細胞の妥当性やまた技術的にも困難である。

一方、1992年L. Pardeeらが確立したDefferential Display Method(DDM)は、数多くの遺伝子を簡便に単離する手法として報告された(1, 2)。DDMは一部のmRNAのpoly AにアンカーされたプライマーAと任意の短いプライマーBを用いるRT-PCRの応用化によって、Sequence gelで分離できる程度の数のmRNAに対応するcDNAを増幅して解析する方法である。プライマーAとしては、12通りの5'-T11MN(M=A, C, G)を用意し、プライマーBとしては任意の10merをX個用意し、12x X通りのRT-PCRを行なう。理論上、10merは1000kbに一箇所程度しか存在せず、Sequence gelで解析可能なpoly Aから50~500bの間に存在する確立は1以下である。しかし、PCRがある程度ミスマッチを許容することと、短いとmRNA上での出現頻度は高くなるがアニーリングしにくくprimabilityが低くなり経験的に10merが配列に依存する、50~100のバンドが得られて最適である。実際、PCRの際のアニーリング温度は42℃,40 cycleで行ない、特にdNTPの濃度を通常の1/100の2mMに落として行なう。現報では、30コピーしか存在しないチミジンキナーゼTK遺伝子を検出できるほど感度がよく、同じプライマー同士では、三度の実験で95%以上のバンドの出現、消滅が再現性よく得られている。異なるプライマーA,Bで異なる結果が再現性よく得られるので細胞の二つの状態の記述にも使用可能と考えられるが、プライマーBを何個用いればよいか見当がつかないため、検出されるバンドの数から類推するしかない難点がある。しかし、発現の異なる遺伝子の部分的cDNA、部分的情報を得るには、上記のバンドを切り出して、サブクローニング、シークエンスを行なうだけであるため、非常に簡便かつ短期間で結果が得られる点で旧来の方法に比べ優れている。また、RNAの量も極端に少ない量で行なえる点(1μg~100ng/lane)で、量を得ることが難しい系に応用が可能な点で優れている(3-6)。

 

[Differrential Display Method]

試薬

5x Reverse transcription buffer: 125mM Tris-Cl, pH 8.3, 188mM KCl, 15mM MgCl2, 25mM DTT

MMLV reverse transcriptase (100u/ml)

dNTP (250μM)

T12MN primer (10μM)

10x PCR buffer: 100mM Tris-Cl, pH 8.4, 500mM KCl, 15mM MgCl2, 0.01% Gelatin

dNTP (25μM)

Arbitarary Primer:

Glycogen (10mg/ml)

DNA loding dye: 95% foramide, 10mM EDTA(pH 8.0), 0.09% xylene cyanole FF, 0.09% bromophenol blue.

10x TBE buffer: 108g of Trizma base, 55g of boric acid, 3.7g of EDTA (free acid)

AmpliTaq DNA polymerase (5u/μl from Perkin-Elmer Corp.)

α-[35S]dATP ( >1000 Ci/mmole)

精製したmRNAを0.1μg/μlに濃度調整する。

 

I. Reverse transcription of mRNA

5x RT buffer 4.0μl

dNTP (250μM) 1.6μl

mRNA 1.0μl

T12MN primer 2.0μl

dH2O 10.4μl

65℃, 5min.

37℃, 10min.

MMLV RTase 1.0μl

37℃, 50min.

95℃, 5min.

4℃.

 

II. PCR

10x PCR buffer 2.0μl

dNTP (25μM) 1.6μl

AP primer 2.0μl

RT-mix from Step I 2.0μl

T12MN primer 2.0μl

AmpliTaq DNA pol. 0.2μl

α-[35S]dATP 1.0μl

dH2O 9.2μl

 

<PCR condition>

Step 1 Cycle 40 94℃, 30sec.40℃, 2min.72℃, 30sec.

Step 2 Cycle 1 72℃, 5min.

4℃.

 

III. 6% denaturing polyacrylamide electrophoresis

6% denaturing polyacrylamide gelを作製する。

各々のsampleから3.5μl づつ分抽し、2μl のloding dyeと混合し、80℃ 2min.インキュベートする。その後、すぐに氷中に入れる。

sampleをapplyした後、60W 3.5hours電気泳動する。(xylene dyeがgelから抜け落ちるまで)

電気泳動終了後、用意した3M paperにgelを移し(この時gelが切れやすい為、TBE buffer中で移すのが好ましい)、80℃ 1hour乾燥させる。

autoradiogram O/N

 

IV. Reamplification of cDNA probe

感光したX-ray firmから推測される位置のgelを切り出し、100μl のdH2Oで10min.溶出させる。

Boil for 15min.

Spin for 2min.

新しいエッペンチューブに上清を移す。

3M NaOAc 10μl

glycogen 5μl

Et-OH (100%) 450μl

in a -80℃ freezer for 30min. Spin for 10min at 4℃.

80% Et-OHでリンス後、dH2O 10μlでpelletを溶く。

10x PCR buffer 4.0μl

dNTP (250μM) 3.2μl

AP primer 4.0μl

cDNA template 4.0μl

T12MN primer 4.0μl

AmpliTaq DNA pol. 0.4μl

dH2O     20.4μl

30μl のPCR産物を1.5% agarose gelで電気泳動し、fragmentをgelから切り出す。

 

V. TA cloning

References

1) Liang P. and Pardee A. B. (1992), SCIENCE, 257, 967

2) Liang P., Averboukh L., Keyomarsi K., Sager R. and Pardee A. B. (1992) CANCER RES., 52, 6966

3) Welsh J., Chada K., Dalal S. S., Cheng R., Ralph D. and McClelland M. (1992) Nucleic Acids Res., 20, 4965

4) Liang P., Averboukh L.and Pardee A. B.(1993) Nucleic Acids Res., 21, 3269

5) Bauer D., Muller H., Reich J., Riedel H., Ahrenkiel V., Warthoe P. and Strauss M. (1993), Nucleic Acids Res., 21, 4272

6) Li F., Barnathan E. S. and Kariko K., (1994), Nucleic Acids Res., 22, 1764