3.核酸(DNA)-3・制限酵素反応(粂 和彦)
分子生物学者にとって、酵素は完全に道具であり、キット化されているものも多く、酵素としての理解をしていない場合が多い。しかし、一応第二生化学教室は多少なりとも酵素学も手がけている研究室なので、分子生物学に使うものでも酵素としての特徴を把握して欲しい。またそのことが、実験の失敗を減らし、キット化されていないようなものへの応用力にもつながる。使用する前には必ずMolecular Cloningなどの成書やカタログを参照し、また、キット化されているものでも、その試薬の組成などは必ず調べる(説明書に書いてなくても問い合わせれば教えてくれることが多い)。
1.制限酵素反応
Analyticalな反応とPreparativeな反応があり、目的にあわせて方法を変える。また、ここに示す反応量は一例であり、実験に応じて増減する。
Analytical Digestion Preparative Digestion
10x buffer 2μl 10x buffer 10μl
(1% BSA 2μl) 1% BSA 10μl
DNA 100ng-500ng DNA 1μg-10μg
Water up to 20μl Water up to 100μl
Enzyme 1-2unit Enzyme 1-5unit
至適温度(37℃でない酵素に注意=>SmaI、SfiI、BssHIIなど)で、1時間。DNAさえきれいなら、overnightでも問題ない。
・Analyticalな反応では、とにかく切れればよいのと、一般的にminiprep DNAを使うことが多く、DNAの純度がやや落ちるので、酵素は少し多めに使う。
・切断後は2μlの10x Loading Bufferを加え、10μlを電気泳動する。20μlの系で反応するのは電気泳動の失敗などに備えるため。
・Preparativeな反応のようにDNA量が多い方が酵素はよく働くので、あまり酵素過剰にならないように気を付け、1時間後に一部を電気泳動で調べ、完全切断していたら反応を止める。overnightはできる限り避ける。over digestionはDNAの末端を傷つけたり、nickを入れたりして次のステップに大きな支障を来たすことが多い。
・市販の酵素は、表示されているよりもかなり力価が強くなっているので(表示力価はいわゆる最低保障と考えた方がよい)、理論量だけ入れれば必ず完全切断できるはずである。うまくいかず、partial digestionになってしまう時は、酵素の量を増やすことよりも、下に述べるように自分のDNAの純度をまず疑うこと。
・BSAは酵素を安定させ、混入物による酵素の阻害を軽減するので、通常全ての反応に加えた方がよい。ただし、10x bufferと混合して保存してはいけない(なぜか?考えてみること)。
・制限酵素の分注は必ず未使用のピペットマンチップで行う。多数のサンプルを同じ酵素で切る場合は、まずチューブ゙にDNAのみ分注下した後、本数分の反応液を作る。ここに最後に酵素を入れて、穏やかに混和後分注する。こうすることで、コンタミネーションを避け、使用する制限酵素を節約することができる。
2.酵素反応の一般的注意
・全ての反応は使用する核酸の純度に左右される。DNAに混入してくる物質で問題になるのは、多くの場合、塩とフェノールである。エタノール沈殿後のNaClが混入した場合、制限酵素の中でも、高塩濃度を嫌う酵素(KpnI, SacI, etc)による切断のみがうまくいかなくなる。フェノールはほとんどの反応を阻害するので、多量の酵素を必要とするようになる。そのため、フェノール/クロロフォルム抽出後のエタノール沈殿はなるべく2回以上行い、最後の時はNaCl以外の塩を用いる。エタノールそのものは濃度が低ければ(1%以下)ほとんど反応に影響を与えないので、気にしなくてよい。
・上記の混入物による影響を避けるには、精製を丁寧にする以外に、精 製するDNA量を増やすことが有効である。つまり、DNA量が多ければ、たとえ混入物があっても反応にはそのごく一部が持ち込まれるだけで、悪影響を最小限に抑えられるからである。そのため、プラスミドのmini-cultureなどではなるべく収量の多い方法(terrific brothで培養するなど)の工夫をするとよい。
・また、自分で精製したDNAの純度の検定は、UVスペクトラムをとるのもよいが、制限酵素のよい基質になるかどうかがよい基準になる。そのため、日常的な制限酵素反応で制限酵素を過剰に使う人も多いが、いつもある程度ぎりぎりの量を使っていれば、DNAの純度のよいコントロールとなる。そのため、初心者は最初は必ず理論量を使って反応をしてみること。
3.修飾酵素反応
ライゲーション:T4 DNA ligase(Takara;Code No. 2011A;25,000 units;定価10,000円、NEB;Code No. 202S;20,000 units;定価12,600円など)を用いたDNAの結合反応では、1. DNAの末端濃度、2. 末端の形状(突出・平滑、5' 端のリン酸化の有無)、3. 温度、が問題になる。目的(tandem ligation, cyclization, self-ligation)によって、条件を設定するが、一般にDNA濃度と温度が高いほど、分子間結合が起きやすくなる。通常16℃、overnightの反応が推奨されるが、ligase活性の至適温度はもちろん37℃であり、平滑末端のtandem ligationなら37℃でも原理的にはよい。Xho IなどのGC richな末端のligationでは4~16℃、平滑末端ではやや低温で4~12℃、EcoRIなどのAT richな末端では4℃のような低温の方が、スリッピングを起こさず、siteが潰れることが少なくなる。
DNAの末端濃度は、約3,000 bpのプラスミドベクターの場合、通常50 ng/20μlのプラスミドベクターに対して、モル比で1:1 ~1:3程度のinsert fragmentを加えて反応を行っている。
TakaraのライゲーションキットはNaClとPEGが反応液に入るとDNA末端の有効濃度が高められたような効果があることを利用して反応を促進している。そのため、スリッピングや、non-specific ligationにはより注意を払う。また、PEGがcompetent E. coliにtoxicであることにも注意する。ライゲーションは最も頻繁にする操作の一つで、なおかつ制限酵素反応と違い、すぐには結果が見えないので、詳しい反応理論を一度は勉強するとよい。
脱燐酸化:BAP(東洋紡;Code No. BAP-101;50 units;定価10,000円)、CIAP(東洋紡;Code No. CAP-101;1,000 units;定価10,000円)、TsAP(GIBCO BRL;Cat. No. 10534-014;1,000 units;定価10,000円)などを用いている。最も頻繁に用いられるBAPは、non specific phosphataseであり、DNAにnickを入れることもある。そこで反応は必要最小限とする。5' 突出末端は通常37℃、30分で充分であるが、3' 突出末端や平滑末端の場合は高温(55~65℃ぐらい)で1時間ぐらい処理する方が良い。また、反応後は必ずフェノール/クロロホルム抽出で酵素を完全に除く。
平滑化:同じ平滑化といっても、3' 突出末端は削るしかないが、5' 突出の場合は削ることも埋めることもできる。3'→5'を削り、5'を埋めるのは、T4 DNA polymerase、Pol I、Klenow (Pol I、Large fragment)などがある。またsingle strand specific DNaseとしては、Mung Bean Nuclease、S1 Nuclease、BAL31 Nuclease(いずれもTakaraのものを使用している。詳しくはカタログを参照。)などがある。個々の使い分けは省略する(TakaraがBlunting Kitというキットを売っているが、これはT4 DNA polymeraseとそのバッファーをライゲーションキットと一緒にしただけという製品なのでできれば単品で買いましょう。少し安いので・・・)。